この身体が消える前に


今一度
願いが叶うなら…


もう一度



強く
抱きしめて――…






〜griefu exclamation〜







五月も終わり、そろそろ梅雨に近づいた今日この頃。

退院を果たした幸村は、いつもの如く部活動に精を出していた。


「真田、たまには俺と打たないか?」

「ああ、構わん。」


真田との試合は久しぶりだ…。

俺はフッとそんな事を思いながら、真田との試合を楽しんでいた。


…久しぶりに見る真田の技。
久しぶりに感じる動悸、息切れ。
何もかもが新鮮で、嬉しかった。


入院してからの俺と言えば、まるで魂の抜けた抜け殻のようだった。

でも、その片隅で密かに恐怖に震えていた。

難しいからと言う理由だけで、手術から逃げていた。

「死」と言う言葉に縛られて、手術自体を恐れていた。


「くっ…。」


しかし、真田のある一言が、俺の心に明るい光を差し込んでくれた。













『俺はいつでも、
お前の見方だからな。』












…凄く嬉しかった。

今まで俺は、一人で、凄く孤独だったから。

一人で何もかもを抱え込んで、堅い殻の中に閉じこもって…。


…今まで俺は、
一体何をしていたのだろう…?


今考えると、凄く自分が惨めに思えた。

そして俺は、この真田の一言で手術を受ける覚悟を決めることが出来た。
「死」と言う恐怖から、逃れることが出来たんだ。







「ハっ…っハァ…っ。」

…こうして現在の俺が存在する。

全てが真田のお陰だ。
凄く感謝してる。

この日から真田は、俺にとって、良い友達から特別な存在へと変化していった。

彼の全てが愛しく、何もかもが大好きだった。







「…え…?」


そんな昔の事を考えていた矢先、いきなり視界が空を向いた。


「幸村っ!?」


途端、ドサッと言う鈍い音と共に俺の意識は遠退いた。

遠くからは、頻りに俺の名を呼ぶ真田の声が、小さく木霊していた――…。






「…ん……?」


…ここは、何処だ?

独特の鼻につく臭いに目が覚めた俺は、ゆっくりと辺りを見渡した。


「………。」


そこで目に移ったもの。それは何処か懐かしく、それでいて妙な胸騒ぎのする風景だった。


「おや、目が覚めたんだね?」


その途端、見たことのある服を着た人物が俺の側へと歩み寄ってきた。


「病、院…?」

「そう。君は貧血で倒れて此処に運び込まれたんだよ。」


…そう、此処は病院だった。

あの見慣れた風景は、病院の白い壁で。
あの見慣れた服は、病院の医師が着ていた白衣で。
全てが、白くて…。


またか…。
また何もない白い部屋で、俺は一人、孤独な時を過ごさなくてはならないのか。


「先生…。今度はいつ頃、退院出来るんですか?」

「そのことなんだけど、また暫く入院してもらわなくちゃいけないんだ。」

「やはり…再発、ですか。」

「…それはまだ分からないんだ。只、もっと何か違う病気かもしれない。だから、念のため検査しておこう。」

「…分かりました。」



その後、医師から色々な説明があった。

こう言う薬が必要で、こう言う処置をしなくてはならない、とか。

でも、それにはこれとこれが必要だ、とか…。


そんな専門用語を使った説明をされたところで、俺にはよく理解出来なかった。

只、大変な事態だと言うことだけは、医師の態度で理解することが出来た。

そして、もう俺の後先が、そう長くはないことも…。






「久しぶりだな、幸村。」


それから一週間が経ったある日。
真田が病室にやって来た。
前のように、ケーキを持って…。


「わざわざすまない。」
「いや、構わん。特に大した物ではないしな。」
「…最近、部活はどうだい?」


本当は、部活がどうだとか、そんな下らない話、どうだっていいんだ。


「案ずるな、特に支障は出ていない。」

「そうか、なら良かった。」


本当は
本当に伝えたい事は――…。



「………。」


暫し沈黙が続いた。

言わなければ…。
今言わなければきっと、後悔が残る。

思わず俺は顔をしかめた。

すると、真田はそんな俺の変化に気づいたのか、そっと優しい言葉を投げかけてくれた。


「…どうした幸村。どこか痛むのか?」


今しかない。
言うなら、今しか…。


「真田、実は俺――…。」












もうじき、
死んでしまうんだ…。












そう言おうとしたけれど、俺の言葉は途中ではばかられてしまった。


「そろそろ面会時間終了ですので、面会中の方は速やかに退室して下さい。」

「すまん。時間だそうだ。…また来る。」


「また」?
「また」なんてない。
もう、俺には時間が…。


そして、真田は看護士に言われるがまま、病室を出ていってしまった。


「っ…!」


行かないでくれ真田っ!
もうじき俺は…俺の身体はっ――…。










消えてしまうんだ――…。











幸村は、心の中で思い切り叫んだ。

しかし、その声は誰に聞こえるわけでもなく。
只、幸村の心を揺さぶるだけで…。


「っぅ…ふ、ぅ…っ。」

途端に幸村の目から涙が溢れた。

嗚咽が止まらない。


「怖いよ…。
  辛いよ、真田…っ。」


そして、幸村はそのままベッドに顔を伏せた。












ピ――――――――…。










その晩。
突然発作が起こり、幸村はそっと息を引き取った。







「ハァっ…っハ…っ!」

それを知らされた真田は、急いで病院へと向かった。
走って走って走って走って。
やっとの思いで、たどり着いた。

すると、そこでは幸村の母が真田を優しく出迎えてくれて…。


「真田くん、これ…。」
「これ、は…?」

幸村の母は、真田に、ある一冊のノートを手渡した。

表紙には、小さく「Diary」と言う文字が書かれていた。


「精市が書いていた日記らしいの…。大事そうに机の引き出しに入っているのを、先生が見つけて下さったのよ…。」

「これを、どうして俺なんかに?」

「…中にね、書かれていたの。真田くんの名前が。」


俺の名前…?
何故俺の名前を書き記す必要があったのだろうか?


「………。」


俺はその「日記」と題されたノートを、そっと開いてみた。


すると、そこには在り来たりな内容が、坦々と記されていた。

病棟生活が暇だとか、毎日がつまらないだとか…。


「………。」


しかし、最初は順調に記されていた日記も、日にちが経つに連れ、段々と荒く乱暴になっていった。

大分苛ついていたことが手に取るように分かる。

記されている文章も日に日に減って行き、苦しいだとか、辛いだとか…。そんな弱音ばかりとなっていた。

苦痛に歪む幸村の顔が、目に浮かぶ。


そして、その文章も最後には、たったの一行だけとなっていた。


「!!」


その一行は、俺の心を強く踏みつけた。











【○月×日(日曜日)】










  助 け て   真 田











その最後の一行は、俺への助けをこうたもので…。


「っ――…!」


俺は思わず、その日記を抱き締めた。

数滴の涙が頬を伝る。


何故、
何故気づいてやれなかった?
アイツはこんなにも、
苦しんでいたと言うのにっ…。








その後

空から雨が降った






空が泣いている






あれは




誰の
涙だろう――――…‥

(END)




上手いよね・・・。
雅冶さん凄い。

なのにいい素材見つからなくてごめん・・・。


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