伝えたいのに伝えられない
この想いは
一体
何処へやれば
いいのですか…?
*::*秘め事*::*
『好き』の一言が伝えられない。
伝えたいと思うのだけれど、どうしても伝えられない。
俺の名は切原赤也。
今、三年の柳生先輩に、伝えられない想いを抱えている。
伝えられない理由。
それは、先輩と同い年の仁王先輩がいるから。
勿論それだけではない。それだけではなくて、その二人が付き合っているから、厄介なのだ。
恋人のいる先輩を好きになった俺も悪いのだけれど…。
それでも好きと言う想いはどうする事も出来なくて。
俺は内心焦っていた。
早く告白しなきゃ、早く早く早くっ。
身体とは裏腹に心ばかりが先走っていて…。
でも、俺が急いでいる理由はきちんとある。
先輩は現在中学三年生。そう、今年で卒業なのだ。
この学校はエスカレーター式だけど、先輩は他の高校に行くと言っていた。
だから俺は無性に焦っていたのだ。
先輩が卒業して、お互い離れ離れになってしまう前に、俺の正直な想いを伝えておきたい。
でも…
「…仁王君、少しお時間宜しいですか?」
「…?別にいいけど?」
「この前の件なんですが――…。」
こんなに楽しそうに笑う柳生先輩を見ていたら、何だかとても告る気分になれなくて。
正直、先輩を困らせたくないのも事実だから…。
「………。」
だから俺は、正直な想いを伝えないまま、柳生先輩を見送ろうと思う。
俺がもし想いを伝えられたとしても、先輩が困り果てた顔をするのは目に見えている。
だから俺は先輩に想いを伝えずにいようと決意した。
そして、それから数ヶ月後の卒業式。
俺は卒業正賞を片手に、校庭に佇む柳生先輩に声をかけた。
「柳生先輩…。」
「ああ、切原君。…君とも、もうお別れですね。」
「先輩……。」
先輩の『お別れ』と言う言葉が妙に胸に滲みた。この時、俺は無性にある言葉が胸を突いている事に気づいた。
伝えないと決意した筈の一言が…。
「先輩…。」
俺は思わず口を開いた。でも…
「――頑張って、下さいね…。」
…やはり言えなかった。
先輩が好き…。
大好きだけど。
けど
やっぱり、
先輩を困らせたくない…。
「…有り難う御座います。」
そう言って柳生先輩は学校を後にした。
「……先、輩…。」
『ス』
『キ』
俺は伝えられなかった想いを口ずさんだ。
でも、その声も春風に浚われて、青く澄んだ空へと消えていった。
「っ、先…ぱぃっ…。」
途端、涙が溢れた。
それはまるで、今まで募りに募った先輩への想いが一気に溢れだしたかのように、果てしなく、果てしなく…。
昏々と溢れだした。
この想いも
涙と共に
流れてしまえば
楽なのに…。
「っぅ…柳、ぎゅ…先ぱ…っ。」
…募る想いに身を焦がし、私は貴方に涙しよう。
この想いを
忘れられる事あらば…。
(END)
|