詐欺師


俺は何時しか、人を騙すことに快感を覚えるようになっていた。
皆、俺のことを「詐欺師」と呼ぶ。
誰もがそうだと思っていた。
でも、彼だけは決して俺のことを「詐欺師」と呼ばなかった。
只々優しく微笑むばかりで…。
俺は何度彼を騙したことだろう。
しかし、俺がいくら彼を騙しても彼はやはり何も言わず、只々微笑むばかりだった。
…調子の狂う奴だ。
最初は只そんな風にしか思っていなかった。
しかし、お互い時を重ねるごとに強く引かれ合っていった。
…後に俺は彼が非常に騙されやすい体質だということを知る。
偶然、彼が同じクラスのやつに騙されている所を目撃してしまったのだ。
ほんの偶然だとしてもなんとバツの悪い。
…嫉妬。俺以外に騙されて笑ってるなんて許せなかった。
…ちょっとした独占欲。
俺だけにその微笑みを向かせたかった。
…胸の奥底に沸き上がる黒き野望。
彼を、俺だけのものにしたい。
彼を手に入れるためなら何でもしよう。
「詐欺師」という名ももう不必要。
只、俺はまっしぐらに彼だけを見据えてる。
他の物などもういらない。
彼だけが居ればいい。
彼さえ、手に入れることが出来れば。
…そんな無理難題な野望を抱えながら、今日も俺は騙し続ける。
…さぁさぁ、彼を騙しましょう。
さぁさぁ、彼等を騙しましょう。
…最後に自分を、騙しましょう…。

(END)




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