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君に挙げられるものを
僕は何一つ持っていないから
せめて僕の大好きな歌を送るよ
君に届くように
精一杯の声で
君が居なくなった今も
少しも変わらぬこの想いを
あの 真っ青な空に向かって…
。о◎鎮魂曲◎о。
「丸井先輩、一緒に帰らないっスか?」
放課後のグラウンド。 俺は同じ部の後輩である赤也に一緒に帰らないかと誘われた。
「おう、いいぜ。」
勿論答えは決まってYES。 何故かって、俺は赤也が好きだから。 だから少しでも親しくしたかった。
同じ部で後輩だからとかそう言う『好き』じゃなくて、ちゃんと道理にかなった恋愛感情の方の『好き』。
男同士では先ず有り得ない事なんだけど…。 でも、俺は初めて赤也と会ったあの日から、ずっと赤也の事が気になっていた。
でも、やっぱり勇気なんて無くて、あの日から今まで、ずっと言えないで居た事がある。
「この前のカラオケ楽しかったっスね〜。」
「真田バカウケだもんなっ!」
「音痴にも程があるっしょ!」
帰り道。 こんなくだらない会話の中、俺は内心深く思い悩んでいた。
今赤也に告るか否か…。 そう、俺がずっと言えなかったこと…それは、赤也への愛の告白。
もし告って今の関係が崩れたら…。 俺はすぐさま立ち直れるのだろうか?
良い方に崩れたのならまだしも、告るだけでも俺の方が不利なのに、その状態が余計悪化してしまったら…?
そんな事ばかり考えるから言えなくなってしまうのは分かってるんだけど、やっぱりどうしても言えない。
「………。」
…でも、言わなくちゃ何も始まらない。
今日こそはちゃんと赤也に伝えよう。 俺の赤也に対する正直な気持ちを、ちゃんと言葉にして伝えよう。
今やっと決意が固まった。 …はず、なんだけど。
「あのさ、赤也…俺、お前が…。」
―――好きなんだ―――
…たった一言。
後少し 俺に勇気があれば。
後少し 俺が素直なら。
後少し 後少し…。
そう思いながら、俺はまた、その言葉を口の中にしまい込んだ。
「お前が――…唄う歌、案外好きなんだよなぁ。」
思わず適当な言葉ではぐらかしてしまった。
「でしょ?センスばっちしっ!」
「ハハッ。」
そして、適当に笑って相槌を打った。 途端、赤也が言った。
「俺も先輩がよく唄うあの歌好きっスよ?」
…不意打ちだった。
「え、あの唄ってレクイエム?」
「へ〜…あれ、レクイエムって言うんスか。歌詞、全部英語だから意味は良く分かんねぇけど。」 何せあの歌は、赤也に捧げた歌だったから。
「お前、英語苦手だもんな〜。」
「煩いっスねぇ…仕方ないっしょ〜?第一、日本で英語やんのが可笑しんスよ。」
「ハハッ。」
全て伝えるのは無謀だって分かってたけど、少しでも伝わればなんて期待してた。
…幸い、曲が好きだって言ってくれて少しホッとした。
「先輩、歌詞の意味教えて下さいよ。」
すると、珍しく赤也の方から聞いてきた。 英文なんて見たくもないって言ってたくせに。
「secret。これくらい分かんだろぃ?」
「え〜秘密っスかぁ?酷ぇ〜。」
「んなに知りたいなら自分で調べてみろよ。」
そう言って俺は持っていた歌詞の控えを渡した。この際、良い機会だから赤也に少しでも英語を覚えさせようと思った。
「え〜面倒くさいっスよ〜ι」
「いいから、頑張ってみろってっ。」
…否。 そんなの表向きで、本当は俺がその歌に込めた赤也への想いを、赤也自ら解読して知ってほしかった。
だから、珍しくも赤也を応援し、後押しした。
***********
「『僕は君を持つことは出来ない』ぃ〜?何スか、これぇ〜ι」
「はぁっ!?だから違うって言ってんだろぃ?ι」
次の日も、そのまた次の日も、俺は赤也が挫折する度に何度も何度も励ました。
「あ〜っ!も〜ヤダぁ〜〜っ!!」
「ほら、後もうちょいなんだから、頑張れってι」
こんなくだらないことが楽しくて嬉しくて。 毎日が凄く幸せに感じた。
こんな毎日がずっと続けばいい、心からそう思った。
***********
それから数週間後のある日。 俺は不意にテレビの電源を入れた。 すると丁度ニュースがやっていて…。
「げぇ、また殺人かよ…世の中荒んでんな〜。」 俺はまるで人事のように菓子を頬張り、そのままチャンネルを切り替えた。
***********
「……?」
次の日の早朝HR。 フッ、と教室から校庭を覗いてみた。
しかし、そこに何時もは居るはずの遅刻魔、赤也の姿はなく、只妙な悪寒だけが俺の身体を通り抜けていった。
***********
「レギュラーの者は全員集まれ。」
放課後の部活動。 レギュラー人全員が真田に集められた。
それ程珍しくない光景だけど、何故か今日だけは妙に特別な事のように思えた。
「今日、赤也が休みなのは皆知っているな?…その事なんだが、今朝、先生方から連絡があってな。先日――…。」
―――赤也が、 亡くなったそうだ―――
「…え……?」
真田から聞いた一言は俺の思考を酷く鈍らせた。 「…大丈夫か?ブン太。」
隣にいたジャッカルが俺に何か言ったようで、俺の身体はそれを合図に崩れ落ちた。
***********
「……ん…。」
気がつくとそこは何処か寝慣れないベッドの上だった。
「起きたか、丸井。」
「ったく、心配かけやがって。」
隣には真田とジャッカルの姿があって…。
「あ、れ?俺…。」
「先ほど、赤也の話を聞いた途端、いきなり失神してな。ジャッカルがここまで運んだんだ、感謝しておけ。」
ああ…そっか、保健室。俺、余りのショックで倒れたんだっけ。
「そっ、か…悪かったな、ジャッカル…サンキュー。」
「ああ、別にいいさ…。それより、お前が無事で何よりだ。」
そう言ってジャッカルは俺にそっと微笑んだ。
「それじゃあ、俺はそろそろ戻る。丸井、お前は今日、帰っていい。それとジャッカル、丸井に付き添っていてやれ。」
そう言って真田は部屋を出ていった。
ジャッカルと二人、残された俺は暫し黙り込んでいた。 それで色々と考えてた。 何故赤也は死んだのか。何故死ぬのが赤也じゃなければならなかったのか。
何故あの時、 ちゃんと気持ちを伝えなかったのか…。
考えたけど答えなんか見つからなくて。 ジャッカルに聞こうとしたけど、何故か言葉が出てこなかった。
すると、ジャッカルは俺の気持ちを悟ったかのように、話始めてくれた。…こう言うとき、相方って有り難いと思う。
「赤也な…通り魔にやられたんだと。ほら、最近流行ってたろ?中学生ばっか狙った悪質なやつ。だから偶々、偶然が重なって――…。」
「なぁ、ジャッカル…。俺さ、昨日テレビで見たかもしんない。」
「え…?」
今更…
「昨日、テレビでやってた殺人事件…あれ、赤也だったのかもしんない。」
今更言ったって仕方ないんだけど…
「ブン太…。」
「俺っ、赤也のことまるで人事みたいに言って…っ。」
何だか、今何か言わないと直ぐにでも泣きそうで仕方なくて…
「俺っ、赤也のこと見捨てっ――…!」
途端、ジャッカルに抱きしめられた。
「分かった…分かったからっ。もう、何も言うなっ…。」
でも、こんな優しい事言うから、もう抑えなんて効かなくて…
「っぅ…何、で…だよぉ…っ赤也ぁ…っ!」
涙がどんどんどんどんこみ上げて、もう止め方なんか分からなくなってて。 只々ジャッカルにしがみついていた。
***********
「…悪ぃ、もう平気だから。」
一頻り泣いた後、涙も要約枯れ果てて、俺はしがみついていたジャッカルから離れようと、そっと腕を離した。
「………。」
しかし、ジャッカルは再び強く俺を抱きしめた。 「えっ、ちょ…ジャッカル?」
「………。」
俺は驚いてジャッカルを見た。 でもジャッカルは何も言わず、只々俺を強く抱きしめているだけで…。
「こんな時にこんな事言ったら、狡いって言われるかもしれないけど…俺、お前のことが好きなんだ。」
「え…?」
要約喋りだしたかと思ったらいきなりの告白。 俺は再び驚いた。
「パートナーだとか親友だとか、そう言うんじゃなくて、本当に恋人としての『好き』なんだ。」 「ジャッカル…。」
俺は内心、心が揺さぶられていることに気づいた。 俺は勇気がなくて赤也に告れなかったけど、ジャッカルは今こうして俺に告ってる。
出来ることなら、このままOKしてやりたい。
「サンキューな、ジャッカル…。」
でも…
「でも、ゴメン…俺、お前をそう言う風には見れない。」
俺、赤也のこと、どうしても忘れられないから。忘れたくないから。
今でも沢山 大好きから…。
「………。」
ジャッカルの表情が一気に曇ったのが分かった。 無数の針が俺の胸を貫いていったような錯覚に見回れる。
何度経験しても、やはり他人を振ると言うのは、とても凌ぎないことだ。
***********
「…そっ、か。分かった。悪かったな、変なこと言って。」
罪悪感に見回れる事、多々数回。 やっとジャッカルの重たい口から言葉が発せられた。
俺は内心、何か思い物が取れたような気がして、少し身が軽くなった。
「別にいいって…でも、これからも友達で居てくれよな?相棒っ。」
「当たり前だろ?相棒なんだから。」
「おう!じゃ、これからもシクヨロっ。」
そう言って俺は部屋を勢い良く飛び出した。
「ったく…泣くどころじゃねぇな、こりゃあ。」
部屋を去る瞬間に聞こえたジャッカルの声。 それには微かに苦笑が混じっていた気がする。
***********
「ハァ…っハァ…。」
帰り道の川縁。 俺は思い切り走っていた。
今までの出来事を全て、振り切るかの如く、どんどん足を加速させて。
「っし!着〜いたっとっ!」
そして走るに走って、俺はやっと川縁の上流にまでたどり着いた。
そして真っ青な空を仰ぎながら、俺はドサッと芝生の上に寝転んだ。
「はぁ〜〜、気っ持ちぃ〜っ!」
そして大きく背伸びをしながら思い切り叫んだ。 「赤也〜聞こえてるかぁ〜?俺な、ホントはお前の事が大好きなんだぜぇ〜〜っ!」
周りなんて気にしない。何にも気にならないくらいお前にハマってる。
「世界で一番お前が好きだぁ〜っ!!」
その時、俺には赤也が空の中で笑ってるように思えたから。
だから、何処までも届くような大きな声で思い切り歌った。
貴方に捧げた、 愛の鎮魂曲を――…。
――君に挙げられるものを
僕は何一つ持っていないから
せめて僕の大好きな歌を送るよ
いつでも君を想いながら あの空に向かって唄おう
君に捧げる
愛の歌を…
(END)
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