夏も終わりを告げ、秋へと季節も衣替えを果たした今日この頃。
俺はいつもの如く食っていた。
俺の必需品である食い物を。


俺の名は丸井ブン太。
この季節は俺にとって、大事な食欲の秋でもあり、又、大切な思い出の季節でもあったりする。

それは今から四年前の、今日のように、食欲がいつも以上に食い物を欲した、そんな日だった…。



やはり俺は、いつもの如く食っていた。
愛しい愛しい食い物を。
この世の中に、食い物ほど愛おしい物はない。
ずっとそう思ってた。


暫くして、俺の家は家族総出で、国内旅行へと旅立ことになった。
その日は妙に腹が減っていて、いつも以上に沢山の朝飯を平らげた。



「田舎…。」


その日、早速旅行に出かけた俺達は颯爽と電車に乗り込んだ。
そして着いた駅前で、俺が最初に思った一言がこれだ。
あまりにも驚いたため、思わず口をついてしまった。

それから専属タクシーで予め予約しておいた旅行へと向かった。
移動中、窓からは青々とした深緑が俺達のことを覗いていた。


そして俺達は旅館へとたどり着いた。

すると、妙に不思議なオーラが漂う少年を発見した。
特に目立ちもしない、至って普通の男の子。
しかし、目だけは何かを物語っていた。

何の混合もない、美しい青。
それはまるで、あの時窓から覗いていた深緑のような色だった。

しかし俺は、この旅館のの子供かなにかだろうと思い、特に気にも止めなかった。



そして次の日の明け方。俺は一人、旅館外の散策に出かけた。
理由は、昨日女将から言われた、ある一言がキッカケだった。


『この辺りの森には、沢山の山菜やら果物などが穫れるんですよ。』


食い意地の張っていた丸井は、直ぐその話に食らいついた。

そして丸井は、そのまま例の森へと姿を消した。


暫く歩いていると、小さな赤い実のなる、大きな木があった。
丸井はここぞとばかりに、それを何とか下へと落とした。
そして、丸井がその実に手をかけようとした…その時――…。


「Σあ〜〜っ!」


微かに坂になっていたのか、その実は地を這い、何処かへと転がっていってしまった。

慌てて丸井は追いかけた。
今の丸井は、まるで「舌切りスズメ」に登場する老父のようだった。


小さな木の実を追いかけて、追いかけて…結局は大きな谷底に呑まれていった。


崖から落ちた。
それはあまりにも一瞬の出来事で…。

大きいと一言で言っても、それは酷く深く、小柄な丸井は直ぐに飲み込まれてしまった。


もうダメだっ!

そう思ったその瞬間、落下する俺の身体を、何やら青白い光のようなものが覆い被さった。

俺は恐怖で堅く閉じていた目を、そっと開いてみた。
すると、その青白い光は人の形をしていて、その顔には妙に見覚えがあった。


「お前は…。」

「………。」


その光は優しく微笑み、丸井の目を優しく覆った。
すると丸井は段々意識が遠くなり、遂には意識を手放した。




気がつくと、丸井は家族達に囲まれていた。
服は微かに汚れていて、母親はハラハラ涙を流していた。

丸井はハッと思い出した。
あの時見えた顔は、確かに彼の顔だった。
紛れもなく昨日、到着時に出会った彼の…。

その時、丸井は何故か切なさに呑まれた。


「………。」


何で見ず知らずの俺を庇ってくれたんだろう…それに――…。



彼は何故、青く光っていた?



後に丸井は、食べ物以外の愛おしいモノを見つけたと言う…。

それが何だったのかは、彼だけの大切な秘密…。
(END)


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