Op.1 「イノセント…何しに来たんだ?」 「ソルヴァに逢いにv」 「そうか…。お前…変わんねぇな」 「ソルヴァは…変わったね。翼…どうしたの?」 ソルヴァの顔色が変わる。 「…立ち話はなんだから、部屋、来い」 「ソルヴァの部屋」 「あぁ」 「さぞかし、汚いんだろ〜な〜」 「いーから、だまってついて来い。さもなくば、捨てるぞ?」 「は〜い」 門を抜け、正面玄関に入る。 中はシャンデリアでライトアップ去れたお洒落な創りになっている。 「うわ〜、ソルヴァ、いつもこんなトコで生活してんの?」 イノセントが辺りを見回しながら感慨深げに言う。 「あぁ」 「ズルーイ。ズル過ぎだよっ!ボクも暮らしたい」 「そーかそーか」 奥まで行くと螺旋階段が続く。 「イノセント、お前、体力あるか?」 ソルヴァは、最初の1段を登り、後ろにいるイノセントを振り返る様に見ながら聞く。 「体力ぅ?そこそこならね」 「そうか。ならいい」 「何が?」 「俺の部屋…結構上だぜ」 「はーい。頑張って登りまーす」 「そーか、頑張れ」 † † † † 「ねー、ソルヴァ〜もー駄目ぇ」 「そりゃ残念だな。帰るんだな」 「えーヤだ」 「知らねぇよ。もうじきつくがな」 「ホント?よかったァ」 「お前って…楽天的…」 ぼそりと呟かれた言葉は聞こえたのだろうか? 聞こえたにしても、イノセントは凹む魂ではないのだが。 「ねーソルヴァってさ、何でこんな上の階にいるの?」 ふと、イノセントが聞く。 「はァ?」 「まるで…閉じ込められてるみたいじゃんか」 イノセントの確信めいた言葉に、ソルヴァは、ふぅっと長く息を吐いた。 「俺は悪魔族の末代だ。疎われても仕方ないんだよ」 「じゃあさ…何でこんな豪華の城に置いてもらってんの?」 「あぁ…ソレは…黎珠サマの趣味なんだとよ、俺が」 「れーじゅさまァ?誰ソレ」 「この城の城主」 それからほどなく、ソルヴァの部屋についた。 「綺須羅、遅かったじゃない、アタシ探しちゃった〜♪」 「きすら?」 どうやらソルヴァのことらしい。 ソルヴァに声をかけた女性は、漆黒の髪に、蒼の瞳。 ミルクブルーのチャイナドレスを着ている。 長い黒髪は彼女自身の髪によっていわかれている。 「黎珠様、探しておられたのですか?魔力を使えばすぐに見つかりでしょうに」 「そりゃそーなんだけど、疲れるし、魔力の浪費じゃん?」 (え〜この人がれーじゅさまァ?嘘でしょぉ?ソルヴァを趣味で飼ってんだから…もっと…こーな、人だと思ったのにぃ…!イメージ違ァ。なんつ〜か、姐御系?) 「そうでしょうか?それで…俺に用なのでしょ?何でしょうか?」 ソルヴァが、部屋を開錠しながら聞く。 「あー、そのことはもー解決したんだけどね〜」 「何でした?」 「メイド達が、スンゴイ美少年がソルヴァを訪ねて来たっつぅから、気になってさ〜」 「はぁ…」 「このコだろ?」 長い人差指でイノセントを指す。 磨きぬかれた爪が、きらりと光る。 「えぇ、そうですよ」 ネイルはなし。 薄桃色の、指は磨かれただけ。 首からはクロスをモチーフにしたシルバーアクセ。 ほんのり薄付きのメイク。 派手じゃなく、清楚に…。 そのままの美しさで…。 朱理 黎珠 (しゅり れいじゅ)。 彼女こそが、サイパーハイパーの女主人なのだ。 ちなみに朱理黎珠とは魔名である。 魔名。 魔の力を有する物が持つ名。 ソルヴァなら綺須羅。 緋 綺須羅 (ひ きすら)。 「可愛〜じゃん…っっ」 黎珠はイノセントに近寄り、抱き締める。 「あっあの…」 イノセントの顔に焦りが浮かぶ。 このように、人に可愛がられに来たのではない。 ソルヴァとはしばらく会ってなかったから…会いたかったけど…。 使命があるのだ。 「う〜ん、お肌スベスベ〜。化粧水とか使ってるのぉ?何所のぉ?」 質問攻めとはこのことを言うのだろうか…? 「綺須羅様、イノセント…嫌がってます。嫌われますよ。このコ、感情の起伏が激しいですから」 「えー!」 「えーじゃないです。イノセント、わざわざ来たからにはワケるんだろ?」 「……うん」 「…てわけで失礼します、黎珠様」 一礼し、自分の部屋に入る。 「さ、イノセント」 イノセントを促しながら。 「…うん!」 † † † † 「さてと…イノセント…何の用だ?聞いてやるよ」 「この城に……サラシャハーンって人…いる?」 「あぁ、いるぜ。…そいつがどうかした?」 「…追われてるの。国際科学研究捜査班に」 「国際科学捜査班…?何で?」 イノセントは、すぅっと、息を吸いこんだ。 「無性体捕獲プロジェクト」 「…お前は…何故知ってるんだ?」 ソルヴァの顔が、驚愕に歪む。 「…シャンって…知ってる?」 「シャン…?誰だ?」 「僕のセンセーだよ。頭よくて、天才で、何でも出来ちゃう凄い人なんだよね!」 「…いつ知り合った?」 「僕は…わかんないんだよね〜。だけど、ソルヴァに会う前も、世話になってたしぃ、解放されてからも育ててもらってたからなぁ…」 「…で、何故お前が言いに来た?そもそも、無性体が何故追われる……?」 「僕が言いに来たのはぁ、シャンがサラシャハーンを助けようとしてるからなの。シャンはそれについて、色々調べてるから忙しくて来れないの。んで、サラシャハーン、逃走出来るよね?」 「…多分。追われてるとなら、な」 無性体。 過ちの末に出来た、醜き生き物。 男ではなく、女でもない。 そして、両性体とも、違う。 両性体。 男であり、女である生き物。 無性体の方が、数は少ない。 そして、追われるというのは…。 無性体には、熱狂的なマニアがいる。 美少年系の可愛い顔に、丸みを帯びた体。 胸も、アレも無い為、どこか未熟さが、未発達さが残る。 そこが、ウケるのだ。 強烈なマニアに、法律なんて、通用しない。 ただ、欲しい。 それだけなのだ。 一心に追いつづける。 「僕…逃げるの?」 震えた、か弱い声がする。 はっと、ソルヴァが振り向く。 いつから来ていたか知らないが、そこにはティーセットを持ったサラシャハーンがいた。 「サラ…いつから聞いていた?」 ソルヴァがつかつかと歩み寄る。 その顔の険しさにサラシャハーンは顔を強張らす。 「……僕…逃げなきゃいけないの?」 ソルヴァの問いかけを聞いてないかのように、逃げるか否かを聞く。 「サラ、いつから聞いていたかを聞いてるんだ」 「ゔ…」 その強い眼差しに、捕われる。 いつもいつも、逃げられなくなる――……。 「琉貴逢に…剣術の稽古して貰ってて…。んで、上まで来る途中オネーサマにあって「客来てるよ」つってたから…。お茶」 琉貴逢(るきあ)とはサラシャハーンを趣味で面倒見てくれている、この城の衛兵で、オネーサマとは、綺須羅のことらしい。 綺須羅自らそう呼ぶように言ったらしい。 綺須羅は可愛いコフェチである。 そんでもって翼フェチでもある。 変わった人だ…。 「と〜に〜か〜く〜、サラちゃん、逃げられるよね?」 イノセントがサラシャハーンを覗き込んで来る。 「…うん」 コクン、と肯く。 「だけど……サラって呼ばないで」 その声があまりにも震えていて、イノセントはからかいたい衝動に駆られる。 (ふふっ…可っ愛い〜) 「…いーけど…何で?」 「っ……ソルヴァだけ…が……いいの」 「そっか。んでさ……ボクは…何で呼べばいーの?」 「サーシャ」 「そ。わかった。じゃ、サーシャ、なるべく早く発ちたいから、準備し始めてくれる?」 「うん!」 「うわぁ〜、2人並んでると…イイ感じじゃなぁ〜いっ!!!」 「黎珠様……今度は何の様ですか?」 「ん〜だってさぁ…綺須羅…行っちゃうんでしょぉ〜?」 「ハイ、行かせて下さい」 「黎珠、寂し〜v」 「…変な声出さないで下さい」 語尾にハートマークが山ほどついた様な声に眉を寄せる。 「だってェ……綺須羅はアタシのモンなのにぃ…何で行っちゃうかなぁ?」 「俺は………祷紅から……サラを預かったから……守らないと……」 「祷紅だったのぉ?親」 「違いますけど…」 祷紅(じゅこう)。 誰なのだろう? その名を口にしたソルヴァの顔が…悲しみに歪んだ。 (ソルヴァが……恋した人?だとしたら……サーシャちゃんカワイソ……) 「そっか……祷紅とは…アタシも面識あるからァ…まぁ、しかたないか…行っといで。だけど……絶対帰って来てよね!」 「はい」 ちぇっとか言いながら黎珠が部屋を出てく。 かと思ったら、またドアが開いた。 「あ〜、旅に役立つもん…何かやるよ」 へへっと笑いながら階段を下りて行く足音が遠くなる。 「セント…、そのシャンとか言う人の城まで…どれぐらいだ?」 「…ん〜、旅慣れてる人でも2か月はかかるかな…旅慣れてないと…歩き難い場所一杯だから…サーシャちゃんはキツイだろね…」 ボクはァ、飛んで来たけど…っと、さり気につけたす。 「セント…ソレは嫌味か?それとも決闘申し込みか」 ソルヴァの額に青スジが…。 「ゴメンゴメン…んな、マジにしないでよ」 「ソルヴァ…荷物って…何がいるんだろ?」 額を寄せ合い、喧嘩する2人に、ちょっと退きながらサラシャハーンは声を掛ける。 「あ〜…今行くよ」 そしてソルヴァはサラシャハーンを引き連れ、部屋を出て行ってしまった。 イノセントは、周りに誰もいないことを確認して、首からかけている麻紐を取り出す。 紐先には無色透明の珠がついている。 直径2pだろうか。 「センセ」 一目を気にする様に小さな声を出す。 ポッ。 擬音をつけるなら、そんな感じ。 珠が赤く変化する。 「上手く…行きそうだよ」 『そう…がんばって…』 珠から男の低い声がする。 そしてまた、珠は無色に戻る。 しかし、先程よりも、白濁していた。 そう。 この珠の名前は。 通信珠。 北部の魔法使いが、発明・作成した、優れもの。 彼等の逃走が……始まる。 |